エンプティ・スペース 008 段丘のある公園で過ごす。沼畑直樹Empty Space Naoki Numahata


2018年8月21日









引っ越しをしてすぐ、新居を楽しむ間もなく、山梨県本栖湖でのキャンプがあった。





ミニマリストのパパスさんと毎年恒例になっているキャンプで、娘と私の二人で参加し、テントをはらずに車で寝るという楽しい行事だ。





そのキャンプから帰ってきて、ついにゆったりとした新居の朝を迎える。









その日は、まるで遠出をする日の朝のように、5時ごろ目が覚めた。階段横の小さな窓からみえた朝陽が美しく、廊下がオレンジ色に光っていた。気分が盛り上がった私は、泊まりに来ていた義母と義姉を誘い、娘と4人で朝散歩をすることにした。





外は涼しかった。鳥の声が心地良い。





近くに小さな公園を見つけ、そこでまず朝陽を浴びる。はじめての公園をいろいろ調べているうちに、オレンジ色から普通の色へと太陽の色が変わった。





そのまま、町を囲む大きな公園へと向かう道中、姉が「朝ご飯を公園で食べよう」と言い出した。









日曜日だから、時間はたっぷりある。





家で留守番をしていた妻に連絡し、数分後、妻はサンドウィッチを急ごしらえして、敷物を持ってやってきた。





大きな道を渡ると、目的地である大きな公園。家から歩いて公園に行くのははじめてだが、案外近い。およそ5分。





大きな公園のその隣に、いつも週末に車で来ていた別の大きな公園がある。





その公園は大きすぎて、公園の真ん中が大きな道で分断されている。道の南側が比較的大きく人が多いが、北側は面積が小さく、人が少ない。





目的地はその北側だ。





昔はゴルフ場だったらしく、ゆるやかな段丘のある芝生に、まばらな木々。





その先を眺めると、こんもりとした森が見える。









東京なのに、どうしてこんなに「森感」があるのかというと、隣にはまた広大な大学のキャンパスがあり、一部が環境保護区になっているからだと思う。





大学側は一つ高い段丘になっていて、公園とは坂で繋がっている。





地元ではその坂をハケ(崖)と呼ぶのだが、ハケはどの地域でもたいてい、緑に覆われていて、昔の作家が別荘を建てたりした。





ピクニックをしている場所からそのハケの緑を眺めると、果てしない森のように見える。





その向こうには、きっと無国籍の風景が拡がっている…そんな想像力が湧く。









2006年ごろ(12、3年前)、イギリス中の宿を一人でまわるという取材があり、スコットランドからマンチェスター方面を通ってロンドンに戻る手前、リリングストーン(F1で有名なシルバーストーンサーキットが近い)にある煉瓦作りの宿に泊まった。





まわりは農場で囲まれ、店も何もないので、宿の女主人が時間つぶしに近所の散歩を案内してくれた。





そこはひたすらゆるやかな傾斜を持つ芝生の丘で、さえぎるものが何もない。モネの絵画のように積みわらが影を作り、遙か遠くに宿舎のような建物が見える。





夕陽が眩しい時間で、一ヶ月近い取材がこのリリングストーンで終わろうとしていた。見た目の開放感と、仕事のプレッシャーからの解放感で、本当に幸せを感じた。なだらかな丘はどこかで下がり、また上がったりして、ダイナミックな風景を見せていた。宿の女主人は、「これが当たり前だけどね」という顔をして佇んでいた。いや、日本では富士山近くの朝霧高原でも、こんな風景は見当たらない。自分の生まれた北海道ならまだしも。









公園でもないのに、イギリスにはそういう場所がある。





今、サンドウィッチを食べようとしている、東京の西側にあるこの公園は、開放感レベルをリリングストーンよりは下げながらも、なぜかあの積みわらの風景を思い起こさせる。





完全に平坦ではなく、芝生にもなだらかな傾斜があり、敷物に座ってそれを眺めると遠近感が凄い。東京都心では新宿御苑よりも代々木公園に近いか。





なだらかな傾斜は幸福感に繋がる。





デンマークの首都であるコペンハーゲンには、都市部にフレゼレクスベアガーデンズという名の公園があり、噴水前のゆるやかな丘に人々が思い思いに寝そべり、会話をし、サンドウィッチを食べ…という風景を見ることができる。





そこが平坦だったら、あんなピースフルにはならない。









風景に出会い、眺めていると、そういう風に昔の記憶がフラッシュバックするときがよくある。





この日は、もう一度それがあった。川にまつわる何かだ。





ピクニックのあと、公園内を流れる小さな川を散歩していたときのこと。





草木に囲まれた一帯をちょろちょろと途切れそうに流れる小川。





その美しい川辺に娘がおそるおそる下りていくと、「フラッシュバック」が来た。





それは川辺、水車、緑で構成されたイメージ。





何だろうと考えてみると、トムソーヤのイメージだった。ハックルベリーフィン。





子どものころアニメの中に旅行した、ミシシッピの風景。





そのイメージとの最初の出会いはアニメだけども、その後、実写等でミシシッピの本当の風景が心に刻まれている。おそらく、二人がその支流で遊ぶ、アメリカの夏の風景。





目の前の川幅は1メートルちょっと、心に冒険心が流入してきた。









スタンドバイミー、グーニーズ、リバーランズスルーイットと、時々フラッシュバックするアメリカの映画に出てくる田舎の風景。





それがこの川にあるのだ。





子どもが子どもだけで冒険、探検をしている、夏休みの風景、という感じか。

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Published on July 16, 2019 19:05
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Fumio Sasaki
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