捨てたけど、買い戻した本。   沼畑直樹

モノを大量に整理したのは2013年から2014年ごろだから、5年ほど経っている。





本はKindleで発売されているものにして、電子化されていないものはあきらめていた。





それが、ふとしたことから、ある本が「帰って」きた。





友人の家で偶然、なくしたと思っていた本を見つけた。





『アルジャーノンに花束を』の英語本だ。





私はその本を返してもらって、また読むことにした。





チャーリーによる英語の日記形式で構成されるこの本は、スペルを間違い、文章構成力も拙い日記から始まる。が、手術によって知能が向上した彼の日記はどんどんレベルアップし、高度な文法を使うようになっていく。





英語の勉強にも抜群なのだ…。





もうすぐ、この傑作の世界に入り浸っていたが、もうすぐ本を閉じなくてはならない。





チャーリーは今、絶好調に頭がいい。ピークだということは、まもなく頭のいい彼とはさよならしなくてはならないということだ。





おそらく20年振りくらいで読み返した本。20年経っても、チャーリーの住んでいるマンハッタンへすぐに飛んで行けた。感謝。









そして今日、二冊の本が届いた。





最後まで捨てるのを躊躇していた本。戦後すぐの東京のルポである『昭和二十年東京地図』の文庫本だ。





つい最近、無性に読みたくなった。だが、電子本は出てなかった。





さっそく、浅草の今戸橋から始まる、この本を読み始めた。





読んだことのない久保田万太郎という作家の作品から、昭和の今戸橋あたりの世界へとひきこむ文章の力強さ。





都市は建物が移り変わり、人が移り変わり、今の風景から読み取れない、昔の人々の営みがある。歴史的に有名なものではなくて、誰も知らない、その町に住んでいた人々の物語。





残念ながら、私はこの本抜きでそれを思い出すことも語ることもできないと、この5年で知ったのかもしれない。





またこの本と付き合っていこう、もう捨てないと誓う。









もう一冊は、はじめて出会うことになる本。





『武蔵野の民話と伝説』で、自分が住んでいる地域の伝説が知りたいのと、子どもに朗読をしたいという理由で購入した。









仕事以外で電子書籍以外の本を購入したのは、この三冊に加えて、あと一冊ある。









去年の夏に引っ越してから、妻の付き合いで本屋をぶらついていた。





何も買うつもりのない私には少々暇な時間だったが、ふとふらついた棚の、平積みにされているところに、ある本が一冊だけ、無造作に置かれているのに気づいた。





誰かが棚から抜いて、置いてしまったのだと思う。





その本は、私がずっと欲しいと思いつつ、手を出さなかった本だった。





星野道夫の、『旅をする木』。









星野道夫という人を知ったのは、まだ実家に住んでいたとき。





17歳。湾岸戦争が勃発し、ソビエト連邦が崩壊した年だ。









自分の部屋の本棚にはびっしりと雑誌がさしこまれていた。





居間で雑誌を読んでいるときに星野道夫のことを知り、この人の本を読みたいなと思って、さあ、部屋に戻ろうと、部屋に戻る。





本棚から、何か雑誌を読もうと思い、適当に抜き取る。





そして、適当にひらく。





そのページが、星野道夫の連載ページだった。









アラスカで写真を撮り続けた彼が連載していた雑誌は、『マザーネイチャーズ』だったような気がする。





カリブーの骨、アラスカの雪をわずかにかぶるコケの写真。「死が当たり前にある」というメッセージ。





部屋に閉じこもり抽象画を描くのではなく、はるかアラスカの地で写真を撮り続けている彼。





その雑誌はひととおり読んではいたけれど、その『イニュイック』という彼の連載には気づいてなかった。









それ以来、彼のファンで居続けたつもりだが、彼がアラスカで熊に襲われて以来、少し距離をとるようになっていた。





『旅をする木』にはいろいろな本にまつわるエピソードがあり、気に入ってはいたが、購入することはなかった。





その本が、電子書籍化せずに、自分の目の前にある。





Kindleじゃないけど、買ってしまおうと決意した。









それからしばらく、その本を開く気がせず、放置してしまった。





が、一ヶ月ほど前から、この本を家族の前で朗読するようになった。





朗読なんてしたことなかったが、6歳の子どもに聞いてほしいと思った。





当然、理解できない部分もあるので、娘からはいつでも質問を受け付けている。





朗読は『銀河鉄道の夜』も加わり、絵本ではない本の世界を親子で体験している。













私が持っていたマザーネイチャーズは、ペンギンが表紙のVol.3(1991年6月)と、カンガルーが表紙のVol.4(1991年12月)。





母なる地球を伝えるための世界各地の写真と文章で構成され、7号しかない。その後は『シンラ』という雑誌へ引き継がれた。









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旅をする木 (文春文庫)





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アルジャーノンに花束を [英語版ルビ訳付] 講談社ルビー・ブックス





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新編「昭和二十年」東京地図 (ちくま文庫)

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Published on May 28, 2019 23:14
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Fumio Sasaki
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