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Ryūnosuke Akutagawa

“と、「愈女流作家になるかね。」と云つて、やさしい口もとに薄笑ひを見せた。しかし机には向ふにしても、思ひの外ペンは進まなかつた。彼女はぼんやり頬杖をついて、炎天の松林の蝉の声に、我知れず耳を傾けてゐる彼女自身を見出し勝ちであつた。
 所が残暑が初秋へ振り変らうとする時分、夫は或日会社の出がけに、汗じみた襟を取変へようとした。が、生憎襟は一本残らず洗濯屋の手に渡つてゐた。夫は日頃身綺麗なだけに、不快らしく顔を曇らせた。さうしてズボン吊を掛けながら、「小説ばかり書いてゐちや困る。」と何時になく厭味を云つた。信子は黙つて眼を伏せて、上衣の埃を払つてゐた。
 それから二三日過ぎた或夜、夫は夕刊に出てゐた食糧問題から、月々の経費をもう少し軽減出来ないものかと云ひ出した。「お前だつて何時までも女学生ぢやあるまいし。」――そんな事も口へ出した。信子は気のない返事をしながら、夫の襟飾の絽刺しをしてゐた。すると夫は意外な位執拗に、「その襟飾にしてもさ、買ふ方が反つて安くつくぢやないか。」と、”

Ryūnosuke Akutagawa, 芥川龍之介全集・378作品 [Akutagawa Ryūnosuke 378 works]
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