“「よいお心がけじゃ。──しかし、おん身は強すぎる、余りに強い」 賞められたと思って、若い武蔵は顔の血に恥じらいをふくんだ。 「どういたしまして、まだわれながら未熟の見えるふつつか者で」 「いや、それじゃによって、その強さをもすこし撓めぬといかんのう、もっと弱くならにゃいかん」 「ははあ?」 「わしが最前、菜畑で菜を耕っておると、その側をおてまえが通られたじゃろう」 「はい」 「あの折、おてまえはわしの側を九尺も跳んで通った」 「は」 「なぜ、あんな振舞をする」 「あなたの鍬が、私の両脚へ向って、いつ横ざまに薙ぎつけて来るかわからないように覚えたからです。また下を向いて、畑の土を掘っていながら、あなたの眼気というものは、私の全身を観、私の隙をおそろしい殺気でさがしておられたからです」 「はははは、あべこべじゃよ」 老僧は、笑っていった。 「お身が、十間も先から歩いて来ると、もうおてまえのいうその殺気が、わしの鍬の先へびりッと感じていた。──それほどに、お身の一歩一歩には争気がある、覇気がある。当然わしもそれに対して、心に武装を持ったのじゃ。もし、あの時わしの側を通った者が、ただの百姓かなんぞであったら、わしはやはり鍬を持って菜を耕っているだけの老いぼれに過ぎんであったろう。あの殺気は、つまり、影法師じゃよ、はははは、自分の影法師に驚いて、自分で跳び退いたわけになる」 七”
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miyamotomusasizenhatikangaponkanzenban
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