山田氏の本は、確か著者が論壇デビューしたての頃に1冊読んだ覚えがあるのだが、調べてみるとその後随分たくさん本を出されていた。だから内容が薄いことをちょっと危惧したのだけれど、読んでみるとそんなことはなかった。(ネタの使いまわしに関しても、「この件に関しては○○という著書に詳しく書いた」みたいな記述が度々出てくるので、逆にそれ以外のネタは使い回してはいないのだろう。)
一番面白かったのは、3章から5章にかけての、結婚の社会的意味や役割の歴史的変化を、前近代から現代まで辿って説明した部分。
特に、近代社会になって結婚の社会的役割の重要性が前近代よりむしろ増した、という指摘は目から鱗だった。私はなんとなく、伝統や慣習的なものの役割は、現代に近づくほど弱まって個人の自由が増す一方のように思っていたので。
つまり、前近代では結婚も共同体の機能の一部として組み込まれていたのだが、近代になって個人はより自由になった。しかし、だからと言って、当時は個人が独身のまま生きていけるような社会ではなかったので、それまで共同体が果していた役割まで核家族が肩代わりするようになり、結婚の意味がより重くなったというわけ。
ちなみに、フェミニストによく批判される「性別役割分業」というのも、実は近代社会の産物だという。
なぜなら、前近代では子育ても生産手段も共同体に組み込まれていたので、子育ても共同体全体で分担したし、生産も女子供も含めて分担していたが、近代になると家族が共同体から切り離され、労働も家の外ですることが普通になったので、男女で役割分担することが合理的になったのだそうだ。
こういう話は、今まで読んだ本とかネットでちら見した議論とかではあまり聞いたことがなかったので(私が無知なだけかもしれないが)、大変勉強になった。
ただ、英語圏の事情にわりと詳しい人間としては、本書に記述されている欧米の恋愛観というのは、少々単純化しすぎているように感じるところもあった。もちろん、日本との対比をわかりやすくするために、わざと単純化しているのだろうけど。
日本の結婚の現状に関する著者の見立ては、日本はすでに近代的結婚が維持できない状況になっているにもかかわらず、日本人は近代的結婚観に固執しているので、日本は結婚困難社会になっている、というもの。この見立て自体が妥当かどうかは私の手持ちの知識では判断できない。
でも、前近代の共同体から切り離された近代の結婚というものは、過渡的で不安定なものだという著者の分析は腑に落ちるものだったので、今後も自分の考えに影響を与え続けるだろう。